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マティーニ頼み
二十代は休暇のほとんどをひとり海外で過ごしました。 初めての旅は、水の都ベネチアへ。朝から晩まで歩きました。どこを撮っても自画自賛するほど絵になったし、何を食べてもおいしかった。それから、フィレンツェ、ミラノ、ハバナ、トリニダ、バラデロ、メキシコシティ。上海とその周辺の小さ...
2020年3月11日
小さな読者
大人になってから仲良くなったひとがいます。Yさんといって、私よりうんと若い女性です。 もともとは、編集者時代に私が「編集S」というクレジットで書いていたコラム(とその雑誌)を愛読してくれていて、 「あれ? このSってひとはもしかして寿木けいと同一人物ではないか」...
2020年3月5日
包丁を折る〜産後のPMDDのこと〜
息子を出産してから半年ほど経った頃、違う人格に乗っ取られたことがありました。 ある日体内から血の沸く音がしました。プツ、プツ、プツプツプツ……小さな気泡が全身を駆け巡り、理性を保っていた糸が些細なことで突然切れてしまいました。窓から飛び降りてしまいたい衝動に駆られ、尖ったも...
2020年2月21日
洋食と美女
洋食屋にいる女性というのは、姿がいい。 こんなふうに思ったのは、『グリルエフ』で私よりひと回りくらい若い三人組の女性たちと一緒になったからでした。オムライスやビーフシチュー、グランタンなど、今では家庭でもそれなりに作れるメニューを、おしゃれして食べにくるという健啖ぶり──...
2020年2月12日
あんこと玉砂利
2020年は子どもの急性胃腸炎で始まりました。 元日の夜に突然上の子が嘔吐し、吐くものがなくなるまで吐き続け、夜間救急に運びました。不憫でたまらないという気持ちと、入院にでもなったら大変だという不安でドキドキしたけれど、翌朝には嘘みたいに元気になっていました。それから一週間...
2020年1月13日
ずるい企画
後輩から耳の痛い話をされたことがあります。 「私の企画が、先輩の企画に比べて劣っているようには思えない」 それなのに編集長はいつもけいさんの企画を通して、私のぶんは採用しない──それが後輩の言い分でした。 後輩の言い分はもっともだと、私も思いました。私だって、いつだって自分...
2019年12月10日
ショーケン先生と枕草子
17歳の頃には書きたいように書いていた記憶があります。 通っていた県立高校にYという先生が赴任していらした。担当は国語。先生はショーケンに似ていました。 ある日、授業のあとに職員室に来るように言われ、行ってみると、私が書いた読書感想文が先生のデスクに置かれているのが見えまし...
2019年11月9日
ノート
涼しくなったことだし本棚の整理でもしようかと思い立ちました。整理といっても、懐かしい背表紙に指を引っかけたり、昔の雑誌を立ったままめくったりするだけで、本のかさが減ったためしはないのですが。 ふと、薄い雑誌の間から、失くしたと思って諦めていたノートが2冊出てきました。201...
2019年9月9日
わたしたちは作りすぎている
※出版社の許可を得て、2019年10月16日に発売になった私の二冊目の著書『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』のまえがきの一部を抜粋しています。 「サーバー落ちてるっぽい。死ぬ」 友人が会社から帰宅する途中でこうツイートし、多くのいいね♡がついた。何の話かと思えば...
2019年9月2日
読み書き
10月に出す新刊の校正の山を越え、著者としての仕事は店じまい、といった週末でした。 本を書く間、ずっと考えていたことがあります。こんなに料理のことばかり考えているなんて、頭がおかしいと思われるんじゃないだろうかという不安。アマゾンの森林火災や韓国との関係など考えるべきことが...
2019年8月25日
手つなぎタコ日記 キャンピングカー2019
薪は二度、人を温める。一度目は割るとき。運動として人の体を熱くする。次は暖炉の前にたたずむとき──こう書いたアメリカ人作家は誰だったか。 旅は三度、人を温める。計画を立てるとき。旅の最中。そして、思い返して味わう時に。 10連休の後半、キャンピングカーで4泊5日の旅に出まし...
2019年5月10日
回るかかと
人が忙しく立ち働く姿を見るのが好きです。 私にとってのそれは、正月に母と五人姉妹で台所に立つご馳走の支度でした。嫁ぎ先から戻ってくる姉たちとその家族、まだ独身だった末子の私が年に一度集う席に用意するのは、富山湾の海の幸や寿司、煮物、揚げ物。主役はすき焼き。この献立はずっと変...
2019年4月30日
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