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【補稿】第4夜 今まで書いてきた本のこと

 出版社で編集者として働いていた2017年に、セブン&アイ出版から声をかけてもらったことをきっかけに、初めての本『わたしのごちそう365 レシピとよぶほどのものでもない』を出版しました。


 レシピ本というジャンルに入る本なのに、細かい分量が載っていなくて、文章も多くて、ちょっと変わった本ですねとよく言われましたが、ビギナーズラックか、多くの方に買っていただきました。

 その後、セブン&アイ出版が事業を終了することになり、電子書籍も販売終了。すべての印刷データが私に託されることになりました。さて、このデータをどうするか。自費出版することもできるし、他社に持ち込むこともできる。

 Twitterに投稿してみたところ、たくさんの版元から声をかけていただき、毎週いろんな編集者に会って話を聞きました。最終的には、河出書房新社から2021年に文庫本として生まれ変わりました。文庫に向いている本だと思っていたので、本当に良かったです。




 『わたしのごちそう365 レシピとよぶほどのものでもない』は、私小説ならぬ私料理だと思っていて、好きなものについて存分に語った感がありました。今度本を出すなら、子供を育てながらフルタイムで働いてきた私が、仕事と家事を回してきた考え方と実践を一冊にまとめたいと感じるようになりました。

 品川の「モンドバー」で友人を待っている間に企画案をまとめ、いい感じに酔っていて気分が大きくなり、その場でツイートして版元を募りました。

 何社か声をかけてもらって、最終的に小学館から出したのが、2冊めの本『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』です。


 料理は点で存在しているのではなく、有名無名あらゆる家事の動線上に複雑に絡みあって存在しています。料理の型を10に絞り、それらを軸に献立を展開していくことで、毎日の献立作りを楽に、持続可能にしていこうというのが、この本のテーマです。

 この本には1200字のエッセイが10篇収録されているのですが、「うちでもエッセイを書いてください」と声をかけてくれる編集者が増え、料理以外の仕事の幅が広がりました。



 料理関連の本を2冊出したあと、書き下ろしのエッセイ集『閨と厨』をCCCから出しました。CCCは最初、料理系の本を書きませんかと声をかけてくださったのですが、当時は『いつものごはんは、きほんの10品あればいい』で料理ネタを出し切った感があり、他に書きたいものがどんどん自分の中で膨らんでいました。編集の田中さんに総括としての「あとがき」を渡して、委ねました。エッセイストとしては無名の私を、よく企画会議で通してくれたなと。ありがたいです。



 次に集英社から声をかけてもらい、野菜+記憶という形でウェブで連載を始めたのが、『土を編む日々』です。一年半の連載ののち、数篇の書き下ろしを追加して2021年秋に書籍化されました。自分の記憶と体験を掘りおこし、そこに四季のレシピが並走して、コロナ禍の始まりと混乱とともに四季を駆け抜けた連載でした。大好きな砺波周平さんに写真をお願いできたことも、とても光栄な仕事でした。




 『閨と厨』がきっかけになり、声をかけてもらって書き下ろしたエッセイ集が『泣いてちゃごはんに遅れるよ』です。コロナが始まったばかりの頃、幻冬舎のかたが自宅の近くまで来てくれて、打ち合わせをして、約10か月の時間をもらって書き下ろしました。


 タイトルにもなった、浅草をめぐる沢村貞子のエピソードは最初から構想にあり、それを軸に全編を組み立てていきました。書いている間に、偶然にも丹羽阿樹子の絵画「遠矢」を知り、詳細には明かされていない彼女の生涯にも惹かれました。著作権者の方と交渉を重ねて、この絵を表紙に使わせていただくことができました。書き終わって俯瞰してなお、この絵がふさわしいと思います。



 そして、最新刊の『愛しい小酌』。

 これも、じつはTwitterの投稿がきっかけで大和書房に声をかけてもらいました。自分のために、少しだけ手をかけて用意するお酒と肴。心身をほぐす100cc程度の液体の、魅力というか魔力を、いつか私なりの表現で本にしたいと思っていました。新規のレシピ、継続して撮りためてきた写真、随筆、ショートコラムなど、いろんな側面から、お酒というものに向き合っています。

 一見可愛らしいというか、スイートなタイトルですが、真ん中に置くことで、堂々とした宣言になったと思います。

 2017年に1冊めを出してから、これで7冊めの本になります。

 



 版元の中にいる編集者ですら「本が売れません」と嘆く状況は変わらないわけですが、確かに本は万人にとって「なくてはならないもの」では無くなりました。恋愛と同じく。だからこそ、キラリと光るものを作りたいと思います。


 こうしてざっと書いてみると、すべては高校時代の国語のY先生につながっているような気がします。先生の言葉をずっと覚えていたのかというと、そんなことはないのですが、母に上京を納得させたというその一点において、大きな力があったと思います。



*新刊『愛しい小酌』が2022年10月21日(金)に大和書房から発売になります(詳しくはこちら)。本には書けなかった裏話やエッセイなどを、【補稿】とし、発売日まで毎夜更新しています。



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