息子がスティング(とポリスの区別は付いていない)をかけてくれというので、「ロクサーヌ」を流してやった。ふと気がつくと、「そんなのカンケーねー」(by小島よしお)をうまいことリズムにのせて歌っている。なかなかいい組み合わせだと思いました。皆さんもやってみてください、よろしければ。
新刊のタイトルにある「小酌」(しょうしゃく)は、
①お酒を気軽にちょっと飲むこと
②少人数で飲むこと
2つの意味を拝借して付けました。本書の構成も、大きな柱は①と②で、それを飾るようにしてコラムやエッセイが収録されています。
①には私がこれまで家で楽しんできた、自分で撮ったお酒と肴の写真を使用し、②は友人が2人遊びに来て家で飲む日を想定し、写真家の砺波周平さんに春夏秋冬のコースを撮り下ろしてもらいました。
当初の打ち合わせでは、②は「6人程度をイメージして作って欲しい」と打診されたのですが、スタイリストなしという状況で、6人の食卓×四季のフルコースの撮影に耐えうる量のカトラリーも器も持っていません。
「3人くらいがちょうど良いですよ」
こう提案して、なんとか自前のもので撮影を乗り切りました。葉っぱとか、豆の鞘なんかも器として即興で使っていますので、そのへんも楽しんで探してみてください。
早い段階から私の頭の中には「小酌」というタイトル案があったのですが、最後の最後まで編集者には言いませんでした。それは、一度言ってしまうと、編集者はきっと影響を受けたり引っ張られたりしまうから、結果、著者のアイディアの枠に終始して、小さくまとまってしまうのが怖いんです。
それに、思いがけないような、すっごいセンスがいい!と拍手したくなるタイトルを、編集者というのは考えてくれる人種だという考えが私の中にあります。私も長く雑誌の編集者だったから。先輩にも同期にも後輩にも、これはすごいなと唸るようなタイトルや見出しを付ける猛者がそこいらじゅうにいました。だから、編集者がどんな球を投げてくれるか楽しみにしている、ということもあるのでした。
小さな問題としては、「小酌」が読めるか読めないか。
こじゃく、しょうしゃく、しょうじゃく……読めそうな候補を挙げてみるとざっとこんな感じでしょうか。それでも、私は表紙にはルビを付けないで欲しいとお願いしました。
書籍のタイトルにかぎったことではないのですが、「誤解する人がいるかもしれない」「嫌な気分になる人がいるかもしれない」という余計な配慮が、デザインを台無しにしていくのを見ることがあります。ノイジー・マイノリティを想定して、万が一クレームが来た時の言い逃れを最初から用意しておく姿勢に感じてしまいます。
もちろん、私の本は、そんな小難しいこととは無縁の本です。
「小さな酌」なわけですから、最悪、読めなくてもニュアンスは分かるはずです。ひとりぶんの、ささやかな、きゅうりとビールの写真も背景にありますし。
そうしたことまでイメージして、著者として責任をもってタイトルを提案していますし、表紙にのせるレシピは何がベストかを考えます。嘘があったり、煽ったタイトルにならないように、キャプションからエッセイまで、一冊を通じてすべての文字を私が書いています。
小さな、なんてことないごく私的なレシピにこそ、多くの人の心に通じるふくらみと余白があるのではないか。それが料理に対する私の基本的な考えです。
*新刊『愛しい小酌』が2022年10月21日(金)に大和書房から発売になります(詳しくはこちら)。本には書けなかった裏話やエッセイなどを、【補稿】とし、発売日まで毎夜更新しています。
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