top of page

【補稿】第8夜 泳ぐ、書く

 午前中ラジオを流しっぱなしにしてウトウトしていると、ふと、「ビーチクりん」の連呼が聞こえてきました。J-WAVEの人が身体の一部をそんなあだ名で呼ぶなんて、時代かしら〜とぼんやり思っていたところ、「beach clean」(砂浜清掃)という大変クリーンな話題でした。疑って申し訳なかったです。


 新刊『愛しい小酌』は子供たち(小学生2人)の夏休み期間中に書きました。

 夏休みと普段の違いといえば、まず、お弁当作り。私は相変わらずこのお弁当作りというのが本当に苦手で、台所にしがみついて(40回も!)なんとか乗り切りました。

 もうひとつ問題なのは、仕事に費やせる時間です。学童の時間の関係で、夏休み中は子供たち二人が朝家からいなくなるのが1時間遅く、帰宅は1時間早い。つまり、2時間が消滅してしまうという中で、仕事と家事の時間をひねり出していました。


 そんな毎日で自分に課していたのは、週に3日、最低でも2日は泳ぐということでした。忙しい日が続くと、つい、今日はプールをサボろうかなと思ってしまうのですが、そこはグッとこらえて、15分でもいいから泳ぎました。泳ぎながらも考えるのは仕事のことばかりですが、全身に水圧をかけながら動き回る気持ちよさは、やはり特別です。

 それに、時間のなさを言い訳にしてルーティンを辞めてしまうと、なんというか、どんどん沖へ沖へと流されて、自分の岸(リズム・好循環)に戻ってこられなくなります。プールに行くのを辞めたとて、多分、スマホを見たり、ゴロゴロして、大して仕事もはかどらないのは目に見えていますし。


 新刊の「あとがき」で、水泳とジンが登場する小説の話を書きました。二十代でこの小説を読んで以来、水泳とジン(に象徴される自由なお酒)がある生活が、私の憧れになりました。

 小説の作者は当然分かっているのですが、本の中ではあえて伏せたままにしました。書けば、「○○でしょ、ああ、知ってる」と誰もが分かる有名な作家だからということもあるし、ということは逆に、読んでもいないのに勝手に作風がイメージできてしまう作家でもあるからなのでした。たとえば、上野千鶴子と聞けば「あーフェミニズムでしょ」だし、米澤穂信と聞けば「あーイヤミスでしょ」だし、朝吹真理子と聞けば「あーなんか眠くなるやつでしょ」だし──これらはすべて私が実際に言われたことがある反応です──そういうことから離れて、モチーフとしての水泳とジンに集中させたかったという気持ちもあります。さて誰でしょう? ということで、興味のある方は「あとがき」から読んでみてください。



*新刊『愛しい小酌』が2022年10月21日(金)に大和書房から発売になります(詳しくはこちら)。本には書けなかった裏話やエッセイなどを、【補稿】とし、発売日まで毎夜更新しています。



<< 前へ     次へ >>



最新記事

すべて表示

東風吹かば

私のエッセイ「木陰の贈り物」が中学受験の国語で取り上げられ、しかも私には解けない問題があったことをきかっけに、いろんなことを思い出しました。 正確には、解けないというよりは、なんと答えてよいか分からなかったのです。 そもそもエッセイは、自分でもうまく説明できない、ままならな...

編集長の採点簿

太田和彦さんといえば、私のような左党にとっては居酒屋文学の代表のような存在です。東京の街を遊びまわる際には、ご著書を参考にしてきました。 その太田さんがめちゃくちゃおもしろそうな翻訳本『食農倫理学の長い旅』を出されたというので、しかもそれが400ページを超える大作と知り、な...

家自慢

今日は原稿を一本納品しました。ある出版社の創立125周年を記念して作られた本に掲載される原稿で、字数は2500字。興味があるテーマだったから、気負わずに書けたのはいい。それでも、途中でああ、どうしようと困った点がひとつありました。...

Comments


bottom of page