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ウミネコと蛙

 先日、友人と深川のお不動さんに遊びに行こうということになりました。お礼参りのあとは、当然、魚三で一杯。友人は川を挟んで向こう側、豊洲のほうに住んでいます。

 門前仲町駅で地下鉄を降りて、階段を上がってゆくと、遠くで鳴き声がします。赤ちゃんを連れているひとがいるのかな? と思えど様子が違う。地上に出てみて分かったその正体は、ウミネコでした。

 ああ、今、海のある土地にいるんだなぁと、東京への懐かしさに突き上げられるような気持ちになりました。

 ウミネコたちは、みゃあ、みゃあと新生児のような鳴き声を発して、人間の頭にずいぶん近いところを、縦横無尽、気ままに飛んでいるのでした。

 待ち合わせまで少し時間があったので、近くの骨董屋さんに寄って、

「ウミネコの声、すごいですね」

 と話を振ったら、

「え? ウミネコなんています?」

 とのこと。慣れてしまっているのか、聴こえていないんですね。

 待ち合わせ相手の友人にも聞いたら、

「ウミネコ?気が付かなかった」

 骨董屋さんと同じ返事。

 こんなに賑やかしい声を、ふたりとも、感知していないのでした。


 気になって調べてみると、中央区のホームページには、ウミネコの被害に気をつけましょうというアナウンスがあり、さらに東京都環境局へのリンクを踏むと、フン害への対策が事細かに解説されていました。マンションが多いエリアだから、悩んでいる人がきっと多いんでしょうね。遠くから眺めていれば愛らしいのですが。


 私が暮らす山梨市の牧丘という場所には、鳥がたくさんいます。

 朝は鳥のさえずりとともに目覚めます。冬の間はなかったその声に、始めて気が付いた春の朝のことは、うれしくてよく覚えています。

 良いことばかり...とも言えなくて、オンライン会議や取材のときには、鳥の声が大きすぎるので、窓を閉めます。それでも、先日オンラインでピラティスのレッスンを受けていたら、先生が、

「鳥?」

 と気が付きました。私が鳥のさえずりBGMを流していると思ったようです。


 5月の末に、約3年ぶりに富山に帰省しました。甥の結婚式に出席するためです。

 車の窓を全開にして走っていると、ある音に気が付きました。蛙です。私が生まれ育った砺波市は米どころで田んぼばかりですから、当然、蛙もたくさんいます。山梨の家のあたりは、果樹ばかりで田んぼがありません。蛙の鳴き声が一切しないということにも、この時ハッと思い至りました。

 日が落ちたあと、闇は蛙たちの舞台です。豊かな水からドドドと沸いてくるその声は、聴覚を支配して、暴力的ですらあります。懐かしい、故郷の思い出のひとつです。



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