3月12日(土)に、ライターでコラムニストの佐藤友美さん(以下さとゆみさん)と、お話させていただきます。
この会の主催者であるCOTOGOTO BOOKSの木村綾子さんが、まさにこれしかないというタイトルをつけてくださいました。
「書いて、生きる。書いて、稼ぐ」
オンラインで参加できます。本+zoomのチケットはこちらから。
私の本はもう買ってくださっているという方は、イベントのチケットだけ、もしくは、さとゆみさんのほうをどうぞ。
さとゆみさんには、じつは三度お会いしたことがあります。
最初は三年前。作家キャスリーン・フリンの新刊記念来日イベントにて。お互い、キャスリーンと、本の訳者である村井理子さんのいちファンとして参加しました。
次は二年前。『女は、髪と、生きていく』刊行記念のワークショップ。場所は二子玉川の蔦屋書店。満席。メディアや場によって肩書の看板を掛けかえるくらい、「書く仕事」のなかでもさまざまな顔を持つさとゆみさんですが、このときのさとゆみさんは「セミナーや講演をこなすヘアライター」でした。
そして三度めは、一年前。取材にて。テーマは髪と心。私がインタビュアー、さとゆみさんがインタビュイーでした。
取材のあとは、お互いにどんなスタイルで原稿を書いているかとか、もろもろ、雑談がとても楽しかった。だから、いつかちゃんと、働くことや書くことについてお話してみたいと思っていました。その気持ちが叶って、今回のイベントが実現できることになりました。
さとゆみさんって、話していて本当に楽しい人なんです。それって、天賦の才能のひとつだと思います。
しかし、天賦と書いたそれも、さとゆみさん曰く「作れる」らしいです。
そのあたりの具体的なことについて書かれているのが、さとゆみさんが昨年10月に出版された『書く仕事がしたい』です。
時を同じくして、マーケティング会社PLAN-Bが昨年発表した「大人がなりたい職業」調査の1位が、なんと「ライター」だったんですね。さとゆみさんの本、時代に求められている本だと思います。
書く仕事がしたい── 奇をてらわないこのタイトルを、私は、なるべく多くの人に広く読まれる本にしたいのかなぁ程度に受け取っていました。
しかし、読み進めるうちに、著者は20年以上かけてこの題に行き着くしかなかったんだということが、とくにCHAPTER 5からは、加速して一気に明らかになってきます。個人の切実な気持ちを煮詰めて煮詰めて、その結果残った一粒が、この題なのでした。
多分、書きながら、考えを整理されていったんだとも思います。著者が一冊を書き上げるために費やした時間を感じながら読むというのも、本の楽しさです。
文章はもちろんですが、編集も利いていて。さとゆみさん個人の繊細な出来事・体験・感情を丁寧に因数分解していくことで、結果、多くの人に役立つ本へと開かれていきます。章と章が、支え合い補い合い、溜めや推進になって、一冊のうねりを作り出しています。
こんな風にして本を寄ったり引いたりして眺めてしまうのは、私も、筆名で単著を書く前は編集者だったから。そして、クレジットの載らない原稿を、会社員としてたくさん書いてきました。
私が18年間働いた出版社の編集部門では、編集者はどんなお題でも編集・執筆できて当然という考えというか、カラーがありました。「シニア・ファッション・エディター」「ジュニア・ビューティエディター」などというように肩書や担当は決まっていなくて、毎号、いろんなテーマに関わることができました。この経験が私の宝です。
「こんなつまらない原稿なら、ないほうがまし。このページは写真だけでいこう」
会社員時代、後輩が編集長にこんな風に叱られているのを見たことがあります。
この場面が忘れられなくて、ウェブにしろ、紙にしろ、どこで公開するものでも、見出しひとつ、キャプションひとつ、神経が行き届いた細やかなものでなくてはならないと、私は今でも頑なに思っています。だから、自著のどんなに短いキャプションも、自分で書きます。細部の集合が、一冊の本を支えていると思うから。
細部の集合と書きました。
私が2010年にはじめたツイッターアカウント「きょうの140字ごはん」も、細部の集合のようなものです。アップしてきたレシピは、とっくの昔に数えなくなったけれど、3000はあるはずです。3000のレシピとその投稿のムードが、私というSNS上の人物像を作ってきたと思います。
でも、長く続けるなかで、自分が飽きてきたというのもあるし、ほかの発信もしていこうと思って、昨年の夏からレシピの投稿を意識して減らしました。アカウント名も、自分の名前に変更しました。
レシピだけの投稿をやめてから、フォロワーは5000〜6000人減って、新しいフォロワーが4000〜5000人増えているような感じがします。きちんとマーケティングしているわけではないけれど、12年以上毎日触っているSNSですから、肌の感覚で分かります。
SNSといえば、誹謗や中傷といったこととも無縁ではいられません。さとゆみさんが本の中でシェアされていた、ネガティブコメントとの立ち向かい方に、なるほどと思いました。私はまだ、さとゆみさんほどの覚悟はできていません。悩んで、考え続けていくだろうテーマだと思っています。
そして、現在。
私は本を書いたり料理の仕事をする以外に、企業でも働いています。そこでも、たくさん書いています。今日は、朝からブランド冊子の校正作業をしていました。SNSの中の人も担当していますし、ブランドのウェブサイトのTOPに表示される原稿なんかを書いたりもしています。企画を考えて、取材し、原稿にしたりもします。
自分の原稿を社内の人にチェックしてもらうことも多いです。修正がたくさん入ってきて、アドバイスや指摘にも納得することばかりで、書くことって、なんて難しいんだろうと思うし、もっとうまくなりたいとも、毎日思っています。
ここで言う「うまい」は、お題や求められているテーマから逸れずに、嘘と贅肉のない、磨き上げられた文章で、人の心まで動かせること。
最後に人の心が出てくるのは、私が働いている会社は、「物」を売る会社だからです。
私、買い物がすごく好きなんです。欲しいものがいっぱいあって、いつか自分で商品を作ってみたいという憧れもあったし、商品の背後にある物語とか、実用性とか、デザインの美しさとか、物を買うことで生活が変わる楽しさとか、嬉しさとか、そういったことすべてに関わりたかった。だから、今の会社に連絡をして、幸運にも入れてもらえることになりました。
コロナでいろんなことが止まってしまったとき、恐る恐る企画書を書いて、手を挙げて、新しいブランドを作ることになりました。最初はひとりでしたが、少しずつ増えて、チームができました。
1年準備して、ローンチして、ブランドスタートから1年経って、今、仕事の8割は「書く」ことでチームに貢献しています。商品に言葉を添えて、世の中に送り出すわけですから、商品の良さがちゃんと伝わっているか、嘘を書いてないか、敵を作らないか──自分で自分の文に突っ込みを繰り返して、臆病に書いています。
会社でたくさん臆病に働いた日ほど、こうして自由に日記を書きたくなりますし、エッセイはもっと書きたくなります。
寿木けい名義で仕事をしていると、「そろそろ会社を辞めて、物書き一本でいくんでしょう?」と言われることも多いのですが、それが、全然全然。会社のチームで働ける機会を、私は手放したくありません。会社勤め < 物書き なんて図式はないです。
さとゆみさんの本を読んでいて、この、組織を辞めない理由について、「ハッ!」と気がついて自分でも驚いたことがありました。組織で働くこと・山梨移住・執筆。この3つを貫くものがなんとなく分かったので、もうちょっと考えをまとめて、12日にお話します。
さとゆみさんの本には、印象的なフレーズがいくつもあります。
なかでも、あぁ、こうありたいなと響いたのは、
負けにくいテニスをしなさい。
物書きのためにの本なのに、テニス。じつはこれ、ソフトテニスの指導者として有名だった、お父様の口癖なんです(さとゆみさんご自身も、すごく強い選手でした)。
さとゆみさんはこの言葉を、職業に向き合う指針として、ずっと胸に持っているんです。
「勝つ」でも「負けない」でもなく、「負けにくい」。
「にくい」がつくだけで、グラデーションが一気に広がります。勝つことを10とするなら、0にならなければ、0.8でも3.5でもいい。なんと工夫しがいがあるのでしょう!
12日、さとゆみさんと私は、お互いの工夫を持ちよって、新しい工夫を見つけるために、話すことになるんじゃないかなぁと思います。
そしてそれは、ひとえに、「書く仕事がしたい」という気持ちをのせて、この体と、経済を、少しでも丈夫に、幸せに、遠くまで運んでいくためにほかならないのです。
一年ぶりの再会が楽しみです。
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