“おひとりさま”の利

 3月以前はなかなか予約の取れなかった店の予約が取れてしまう幸運が続いている。


 金曜の昼はたまにひとりで外食する。

 6月からレストランの営業も再開したりして、コロナ以前には予約が取れなかったレストランに思い切って電話をしてみたりしている。

 会社員の友達は忙しいし、フリーランスの友達なんて売れっ子ほど仕事が集中して超多忙だから、結局ひとりだ。

 ひとりだから、テーブルを占領するのも申し訳ないような気がして、二日前に電話してみる。すると、案外入れることが多い。


 先日、そうやって獲得した一席に向かったときのこと。

 お店に入って驚いた。広い店内が改装されて、すべて個室ブースに区切られていた。景色ががらりと変わってしまい、ものすごく違和感があったけれど、こんなご時世なのだから仕方ない。


 個室になると、いろいろ勝手が違う。

 たとえば、うっかりナプキンを落としても、自分で拾わなきゃいけない。お店の人からは見えないから。となると足元も見えないということだから、気がゆるんで、ハイヒールの足元をつい行儀悪くしてしまう。足を組みそうになったりもして。

 それから、いいレストランに行くときは、他のひとのおしゃれを見るのも楽しみのひとつなのに、これが、全然見えないのでつまらない。

 レストランの慌ただしくも華やかな空気が感じられない。物足りない。


 でも、嬉しいこともあった。

 私はワインにすごく詳しいわけではないしボキャブラリーも乏しいけれど、こんな風に飲みたいとか、こんな感じのものが好きだという気分をソムリエに伝えてワインを選んでもらう。ソムリエやシェフと話しをする機会があると、とても嬉しい。

 この日、ソムリエが選んでくれたワインを、私がおいしいおいしいと唸りながら飲むものだから、

「そんな風に言っていただけると光栄です」

 と言って、ちょっと飲んだぶんだけ何度か注ぎ足しに来てくださった。

 誰にも見られていないから、あのひとばっかり!と思われずに済む。注がれたワインを、ありがたく堂々と飲み干した。

 これは対コロナ間仕切りの意外な副産物だった。


 ちなみに、「おひとりさま」というのは、あるグルメ雑誌がはじめた呼称。私はその呼び名を使いたくなくて、編集長に逆らってただ「ひとり」と原稿に書いていた。



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