ロモ・サルタード愛

 夫婦揃ってペルー料理にはまったのは2014年のこと。長女が生まれてしばらく経った頃だった。アカチャンホンポの帰りにたまたま入った川崎のアルコイリスで、じゃがいもと牛肉を煮込んだ、名も知らぬ料理のおいしさに目覚め、以来、さまざまなお店に遠征するようになった。

 家でも作ってみたいと言い出したのは夫のほう。そんなこと言って結局作るのは私でしょうと踏んでいた予想を裏切り、荒井商店の荒井隆宏さんのレシピ本購入し、キョウダイマーケット(五反田にある南米食材専門店)に出かけて材料を調達してきた。こうして、たまに家でペルー料理を作る週末がはじまった。


 ペルー料理の魅力は、レモンに代表される柑橘の酸と、多種多様な唐辛子の味わい、そしてじゃがいもへの愛にあると思う。じゃがいもをおいしく食べるために考えられたようなレシピが多いのだ。これらの食材を、魚介や肉、または野菜など他の素材に合わせてアレンジしていく。冷たくて酸っぱい魚介類が好きな私は、まず、夫が作るセビーチェが大好きになった。それから、じゃがいもとチーズの前菜パパ・アラワンカイナも(パパ、芋を洗わんかいな!で覚えた)。気温が25度を超えたら、この2品を前菜にして早めの夕方から白ワインをあける。


 夫の料理を見ていたら私も作りたくなり、何度か試行錯誤して大好物になったのがロモ・サルタード(牛肉の炒めもの)だ。

 牛肉とトマト、赤たまねぎなどの野菜を強火で焼き、アヒミラソル(赤唐辛子のペースト)、赤ワインビネガー、そして醤油で味付けし、フライドポテトを添えてごはんにのせる。醤油を使うのは、ペルーに移住した中国人が作った料理(チーファ料理)だからだという。フライドポテトは添えても、一緒に炒めても構わない。市販の冷凍でOKだよと、ペルー料理店の方に教わった。


 ここ数週間の自粛生活で食費を節約しているので、今週は鶏もも肉で作ってみた。ポテトは冷凍食品で。家族4人分の平日の昼ごはんだ。

 作り方のコツは、使う材料をきちんと並べて把握しておくこと。すべては強火で手早く短時間で炒めるためだ。もたもた禁止。



 初めて作ったときは、味つけの塩梅や手順がよくつかめていなくて、おっかなびっくりして失敗した。野菜が水っぽくなり、ぼんやりした印象で、お店で味わっていたものからは程遠かった。


 作り方は、まず市販の冷凍フライドポテトをフライパンで多めの油で焼き、いったん取り出し、同じ鍋でそのまま鶏肉を強火で焼き付ける。塩胡椒して味もしっかりつける。肉に火が通ったら、次は野菜。形が崩れても構わない野菜から順番に入れる。トマト→赤たまねぎ→パプリカ→最後がニラ。ニラをいんげんに代えてもいいし、パクチーももちろん合う。牛肉を使うときは、焼いてからいったん取り出したほうが硬くならなくていい。


 調味料を入れるタイミングはトマトのあとで。アヒミラソル(赤唐辛子のペースト)と赤ワインビネガー、醤油を入れてなじませる。調味料が一体化して煮詰まることで、また別のおいしさが生まれる。トマトは最終的には形がなくなってソースの一部として溶け込んでしまうのが私の好み。レシピによってはバルサミコ酢や赤ワインを使うものもあるが、私は赤ワインビネガーが好きでもっと仲良くなりたいと常々思っているので、積極的に多めに使う。

 けっこうはねるので、深めのフライパンがあればベスト。なければ、はねるたびに濡れ布巾でこまめに拭く。作り終わったときにキッチンがきれいだと、気持ちがいいし、疲れることなく午後の仕事に取りかかれる。



 いい香り。

 これを熱いうちにごはんにのせて、できあがり。レストランではインディカ種のごはんをマチュピチュの山頂を模して三角錐に盛り付けてあったりもする。私は日本のお米も好きなので、いつも通りで。

 

 4人分、できた。大盛り1丁、中盛り1丁、小盛り2丁。



 赤ワインビネガーと醤油が煮詰まり、肉とポテトがその汁を吸って、無言で食べてしまうごちそうだ。ちなみに醤油にも私なりの工夫があって、にんにく生姜醤油を使う。清潔な瓶に醤油を注ぎ、半分しか使わなかったにんにくの片割れとか、中途半端に余った生姜の端っこをポンポン放り込んでおくのだ。炒め物やスープにも重宝する。このにんにくと生姜を取り出して、ごはんに混ぜて炊いたり、スープのだしの素として使っても乙な味になる。



 何より助かるのは、大人だけでなく、子供もこのロモ・サルタードが大好きだということ。まず買い出しからして大喜びで、パプリカを見つけるとはしゃぐのだ。国民的ヒットソングのおかげで、スーパーに並ぶパプリカの売り上げはきっと恩恵を受けているはずだ。当然私としては「じゃあ今日はロモ・サルタード作ろっか」ということになる。


 炒めはじめたらもう、あっという間。なにより、食欲をそそり、元気になる。一見ボリュームがあるが、不思議と胃もたれはしない。皿がひとり一枚で済むから洗い物も少ない。いつもの食事にちょっと変化をつけたいときに、ぜひ、ロモ・サルタードを。

 ちなみに、ごはんではなく茹でたスパゲッティにのせて、熱したごま油(香りが強い茶色いほう)をジャっとかけても最高だ。



◀前の記事へ  次の記事へ▶

最新記事

すべて表示

フライパンと7月31日の日記

秋冬の野菜を使ったレシピの試作をいくつかはじめている。 問題となるのはオーブンで、根菜やなんかをアルミホイルでくるんで、200度のオーブンで焼くレシピを採用するか否か。だって美味しいに決まっている。バターもしくはオリーブ油、場合によっては、煮詰めたバルサミコ酢なんかをかければ、寝ながら作ってもたいてい及第点には達するのが、オーブン料理だ。(焼き菓子は別。すごく繊細で難しい) でも、オーブンを持って

“おひとりさま”の利

3月以前はなかなか予約の取れなかった店の予約が取れてしまう幸運が続いている。 金曜の昼はたまにひとりで外食する。 6月からレストランの営業も再開したりして、コロナ以前には予約が取れなかったレストランに思い切って電話をしてみたりしている。 会社員の友達は忙しいし、フリーランスの友達なんて売れっ子ほど仕事が集中して超多忙だから、結局ひとりだ。 ひとりだから、テーブルを占領するのも申し訳ないような気がし

肉屋、魚屋

家からのすぐの場所に、魚屋、肉屋、豆腐屋、八百屋が並んでいる。この街に引っ越そうと決めたきっかけになった並びである。 通いはじめたころは、肉屋で肉を買うことになかなか慣れなかったけれど、今ではスーパーで買うほうがむしろ煩わしいと思ってしまう。 例えばスーパーではこんなシーンがよくある。合い挽き肉が300gほしいのに、139gと203gのパックしか残っていなかったりする。結局ふたつ買う羽目になる。