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【補稿】第6夜 女性ひとり、招かれざる客か


 先日マシュマロで「女性一人でも入れるおすすめの飲み屋はありますか? 」という質問を受けました。

 私が入りやすい店なら、たくさんあります。でも、質問者さんがどこに住んでいて、どのような嗜好の持ち主で、飲食代にいくら使う人なのか、少なくともこの3つがわからないと、ちゃんと答えてあげられないなあと思ったのでした。確か、「お店のSNSを見て『女性ひとりも歓迎』スタンスかどうかチェックしては?」といったようなことを返したような気がします。

 でも、よく考えてみると、「男性一人でも入りやすいお店はありますか?」という質問はあまり目にしません。女性に比べたら、飲み屋で嫌な目に遭うことも、店選びで困ることも、少ないんだろうと思います。


 私は20代の頃からひとりで旅行するのが好きで、国内外のいろんな場所を訪れてきました。

 忘れられないのは、青森での出来事です。白神山地を目指す途中で、青森市内に宿を取りました。ホテルの近くで夕飯を食べようと思い、ある割烹に入ろうとしたんですね。お店の方がひどく驚いて、結果、入店を断られてしまったのですが、女ひとりだなんて気味が悪いといって塩をまかれました。2005、2006年頃のことです。いくらお盆だったとはいえ、二本の足でちゃんと立っていました。これが、たとえば出張で青森にやってきたサラリーマンなら、こんな塩対応を受けることはまずなかっただろうと思います。

 ここは花の都・大東京ではない。女ひとりというのは、おかしな目で見られるということをよくよく理解して、以降、地方を旅するときは、お店の選び方には気をつけるようになりました。

 余談ですが、結局その夜は、不肖宮嶋こと報道カメラマンの宮嶋茂樹さんが当時週刊文春で紹介していたお寿司屋さんがあったことを思い出し、行ってみました。とっても居心地の良いお店で、帰りには「ホテルで食べて」と海苔巻まで持たせてくださって。おかげで、青森のことを嫌いにならずに済みました。


 こんなこともありました。

 東京に住んでいた頃、よく通っていたバーの店主は、物もお書きになる人なのですが、あるインタビューで

「ひとりで飲みに来る女性というのは、やっぱり、どこか変わった人が多くて、できればご遠慮いただきたい」

 というようなことを語っているのを読んでしまったときの衝撃!

 こういうとき、2種類の女がいるように思います。ひとつは、きっと自分のことだと思ってしまうタイプ。もうひとつは、自分のことだとは夢にも思わないタイプ。

 私は前者です。「いつでも歓迎です」と言ってくれていたあれはお世辞だったのか......とずいぶん凹んで、以後、友達を連れていくようになりました。(ひとりで行くと)お店の方に迷惑をかけているんじゃないだろうかと、やっぱり、気が気でなくて、ゆっくり酔えないものです。

 それでもひとりで行く店はどこだろうか.....と考えてみると、門前仲町の「魚三」がぱっと思い浮かびました。深川不動のお不動さんにお参りをしたあと、必ず寄ります。海のものがなんでもおいしくて、安くて、気楽です。私のように、ひとりで飲んでいる女性に会ったことは......ほとんどありませんが、行けば、女だとかひとりだとか、そういうことはどうでもよくなります。つまり、良いお店だということです。



*新刊『愛しい小酌』が2022年10月21日(金)に大和書房から発売になります(詳しくはこちら)。本には書けなかった裏話やエッセイなどを、【補稿】とし、発売日まで毎夜更新しています。




 

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