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  • KEI SUZUKI

風とJJ

 どこにも行かない年末年始、久しぶりに女性誌をたくさん買って家でごろごろしていた。


 風の時代到来!──こんなタイトルや見出しやキャプションが多くて、おやっと思った。

 風は歓迎されているらしい。新しい時代がくるらしい。

 風が動くと、何が起こるというのか(解説は後半に)。占星術的な解釈は知ってはいる。でも、それだけでは説明が足りない気がする。


 大好きな女優さんがジル・サンダーのドレスを着て写っている表紙があった。中面ではもっと素敵な写真が見られるんだろうなと、楽しみに買った。そのインタビューを読んで、本当に、びっくりした。

 インタビュアーが、女優にこう問う。

「2021年は風の時代といわれ、世の中が大きく変わると言われていますが(あなたはどう思いますか?)」

 女優は答える、

「私は、そういうのよく分からないんですけど、よい方向へ変わるといいですね」とかなんとか。

 なんという模範回答。そんなこと聞かれても、女優だって困るだろうに、やさしくフォローしている。

 インタビューはそのあとも進み、女優の人生観が引き出されていく。終盤、インタビュアーは女優の返答をうけてこうたたみかける、

「それって、私がさっき言った風の時代と合致してますよね」

 こともあろうか、こんなまとめでインタビューを締めくくるのである。

 おかしいなあ、罹患したか。首筋が寒くてたまらない。

 女優は、風の時代がどうしたこうしたなんてよく知らないよと、初めに釘をさしているではないか。こんなインタビューがよく編集長と校閲のチェックを通ったものだ。風から広告費でももらっているのだろうか。少なくとも私は、つまらないインタビューの代わりに、女優さんの美しい写真をもっと見たかった。


 昨年、ある出版社の編集者と話した時、コロナになってからビジネス本はあまり売れなくなり、代わりに占い本がかなり売れ始めているという話を聞いた。一年の下半期には占い本というのはいつだって売れるのだろうけれど、2020年の夏前からこの傾向は顕著だったらしい。

 占い本がビジネス本の役割を担ってきているかもしれない──これが、私とその編集者のとりあえずの結論だった。飲みながらの話なので、話半分に聞いて欲しいのだけれど。ビジネス本とて、今では書店での棚があるものの、ここ20年くらいの新しいカテゴリーに過ぎない。新たなジャンルにとって代わられてもおかしくはない。

 とにかく、女性誌が一斉に「風」に傾いたのを見て、ああ、これからは「風」的な表現が増えるのかなと思った。


 風の時代って?という人のためにかいつまんで説明する。占星術の大まかな動きはGoogleで「風の時代」と調べてもらって、上位の記事を読んでもらえたら。

 地の時代が象徴していたお金や物質から、風の時代が象徴する情報・体験・人脈へ移行するというのが主旨。

 独占・所有から、シェアへ。

 安定から、流動へ。

 組織から、フリーランスへ。

 既成概念から、オリジナリティ、フレキシビリティへ。

 そんな感じだ。

 これまでの価値観に縛られず、自由で、ときに国や性別のボーダーなく、自分のコミュニティをもってクリエイティブに暮らしてく、ということらしく、そしてそれは、とても歓迎されるべきことで、inなことなのだ。


 でも、いったん女性誌の見出しに踊ってしまえば、それすら「風」という他力本願の護送船にのった思考停止に見える。

 やだ、思考停止なんて言葉を使って!自分は思考進化しているとでも言いたい嫌な感じだけれど、そうではない。AからBへ、パッと乗り移るというのは、日本の多くの雑誌やメディアが得意とする変わり身の早さなので、特に驚かないし、そこが面白さだ。みんなが右にならえで同じことを言ってるのが怖いのだ。


 私の大学(社会学)の卒業論文が、『JJ』を筆頭とした、女性の若さを換金することを観察し、盛り立て、祭ってきた雑誌とその時代への批判だったことも、あらためて思い出す。その『JJ』も、休刊する。


 セーリング(帆走)の選手のインタビューを読んだことがある。

 たとえ船の底で居眠りをしていても、選手は風を知るという。素人がほほに風をうけて風向きを感じるのとは違う。風の向き、強さが、尻の底から、鼓膜のもっと奥から、伝わってくるという。

 風は時差を含む。自らが察知した風の正体が、正であったかどうかを知るのには、少なくとも0.5秒から1秒かかる。長いときは、もっと。セーリングというスポーツの忍耐と、脳味噌に汗をかくような刺激的な面白さを感じた。


「風の時代」ともてはやすことによって、雑誌は想定される読者をどこに連れていこうとしているのだろうか。難破船という言葉は使いたくない。




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