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  • KEI SUZUKI

大人の対応

 何人かの料理家や料理研究家が、自粛期間中にレシピをInstagramにアップするという試みをしていた。じつは私もバトンを渡されそうになったのだけど、Instagramは非公開だし、「その試みなら10年前からツイッターでやっているからどうぞ自由に見ていってください」ということで、参加はしなかった。


 毎日の料理に困っているひとの役に立ちたいという思いでスタートしたバトンだったけれど、いざ投稿してみると、あまりにもコメントや質問が多くて辟易としたのだろう。謝罪しながら去って行ったひとを何人か見た。

「◯◯(たとえばスパイス名)が家にありません。代用品はなんですか?」

「調味料の分量を正確に教えてください」

「右端の皿はどこで買えますか?」

 こんなふうに、まったく悪気のない質問が多かったけれど、さすがに一気にリプライがくるとストレスだろう。よく分かる。


 よく分かると書いたのは、私もたまに似たようなコメントをもらうことがあるから。しかも、私の場合は10年間レシピ「だけ」を投稿してきたので、普段レシピを投稿していない料理家さんたちに比べると、質問された回数も多いと思う。


 私の場合はどうしているかというと、「答えない」。

 これはSNSを始めたわりと初期の頃に決めたことだ。

 ひとつの投稿に対して、いいねとリツイートを合わせて1000件以上の反響があることも多く、全部見ているとキリがないし、Aさんには答えているのにBさんには答えていない、というえこひいきが生まれると、それはそれで面倒だと思った。

 調べれば分かるような簡単なことを、簡単なことだからこそ、「好きでフォローしているあのひとから見解を聞きたいと思うひとって多いんだよ」と指摘されたこともある。


 そもそも、『きょうの140字ごはん』は自分の料理コンプレックスを払拭するためのトレーニングとして、当時流行りはじめたツイッターに記録をはじめたものだ。誰も見ていない=フォロワー0の頃から同じ投稿内容だし、「誰かの役に立ちたい」という夢や大義名分もなかった。

(今では、レシピがいろんなひとの台所に飛んでいって役に立っているらしいことが、とてもうれしい。続けていて良かったと心から思っています)


 自粛期間中の料理家の方達は、善意があったがゆえに、気軽な質問を引き寄せていた。「料理本を出しているプロに、気軽に質問しないほうがよいのでは?」

と別のフォロワーがいさめ、荒れ模様になるひと幕もあった。


 最近私の大事な友人ふたりが、立て続けにSNSでトラブルに遭った。


 ひとりは、先週出かけた国内旅行について、見知らぬアカウントから責められていた。おそらく彼女を非難するためだけに作った捨てアカウントで、「自粛しろ」といった内容を慇懃無礼に書き込まれていた。


 もうひとりは、もらい事故のようなもので、料理写真をアップしたところ、

「調味料の分量を詳細に教えてください」

 と質問が来た。

 それに対し、彼女のファンたちが「図々しい」「本を買え」と物言いをつけた。質問した本人も負けてなくて、「なんであなたにそんなことを指図されなきゃいけないの」と反論。また別の人が「何を書くのも自由。それに対して答える・答えないも自由」と割って入ったりして、ざわざわした展開になった。(中学校のホームルームみたいだなと思った)


 友人ふたりに共通していたのは、誰かを非難するのではなく、「SNSに対する私の考え方とスタンスと、それにまつわる事実」を述べることで、雑音をぴしゃりと鎮めたこと。

 すごいなあ、と思った。

 私だったら、放っておけばそのうち収まるだろうと無視したかもしれない。

 でも、自分のアカウントを守るために、彼女たちのように声明文を出すことはとても大事なんだ、本当は。何も言わなければ、同意や、(文字通り)シカトとみなされ、誰かがなにかをもっと悪いほうへ煽動する可能性だってある。


 荒々しい言葉が行き交うSNSの世界で、私だけは自分の言葉で立ち向かうという気概を、友人ふたりから学んだのだった。


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